かかりつけ医に消化器内科医を勧める理由

頻度が高い病気といえばまず感染症、次に生活習慣病(高血圧、糖尿病、高脂血症)とその合併症である心筋梗塞脳血管障害などの動脈硬化性疾患である。そして、もう1つ 怖い病気がであろう。消化器内科医は、医師となって学び診療する過程でおのずとこれらを含む多彩な疾患をみる機会が多いので、かかりつけ医に必要な医師としての総合力がある。

消化器内科は口から肛門までの消化管と「お腹」をみる内科である。「おなか」は、医学的には横隔膜の下で、腹膜に囲まれた腹腔(ふくくう)という空間を指す。そこには、胃から直腸までの消化管・肝臓・胆嚢・膵臓など多くの臓器が含まれる。また、腎臓は後腹膜臓器といって腹腔の後ろにあるのだが、尿路結石や腎臓の腫瘍などが、腹痛の原因にもなるので、消化器内科にとっては対象臓器である。

消化器疾患には、胃腸炎、虫垂炎や胆嚢炎などの多くの感染症がある。症状や検査所見からの病気の重症度の判断、また、抗生物質の知識などが身につくので、他臓器の感染症である気管支炎や肺炎、腎孟腎炎などにも対処することができる。

健診でよく指摘される肝障害の一番の原因は、肥満やアルコール多飲による脂肪肝で、それらは生活習慣病の1つである。また、肥満と関連性が高い糖尿病、高脂血症、高血圧などの生活習慣病は、最も多い慢性疾患であるため、消化器疾患の患者さんの合併症として勉強する機会が多い。

消化器の各臓器にはそれぞれ癌があるので、その診断・治療から患者心理まで経験を積むことができる。また、消化器外科との検討会で外科の知識にも触れられるし、外科の先生との交流もあるので、その実力や人柄もわかってくる。

また、感染症であろうと癌であろうと、消化器の病気は食べられなくなることが多いから、点滴などの全身管理にも自然と詳しくなる。

別の観点、専門領域の技術や経験を必要とする検査という点からもお勧めする理由がある。消化器内科のクリニックでは消化器を中心に多くの検査ができるという点だ。胃や大腸の内視鏡検査やX線検査ができるし、消化器の超音波検査もできる。超音波検査の知識があれば、心臓の詳しい超音波検査には手を出せないにしても、甲状腺や血管系の超音波検査はできるようになる。胸部X線写真の読影や心電図の解析は奥が深く、専門医のレベルに達するのは難しいが、肺炎や虚血性心疾患などを見つけることはできるであろう。

一方、他領域の専門クリニックでは、そこでしかできない専門的な検査は意外に少ない。たとえば、循環器内科のクリニックでは、心臓超音波検査はできるが、循環器専門医が複数いなければ、心臓カテーテル検査はできないだろう。CTの設備を持つクリニックもある。CTがあれば、全身の断面画像をみることができる。しかし、造影CTを撮るには、造影剤の副作用、特に、アナフィラキシーショックというまれに起きる重大な副作用に対処できるスタッフなども揃える必要がある。従って、クリニックレベルでは、単純CTしか撮らない施設が多い。単純CTが特に有用なのは、心臓や横隔膜近くの肺病変であろうが、CT画像上でその病変に気づくことは、専門以外の医師にとっても難しいことではない。

消化器内視鏡の設備を備えていれば、専門が違う医師でも自己流で経鼻内視鏡を胃の中に入れることくらいはできるだろうが、胃の中をくまなく観察して正確な診断をつけることは難しい。胃癌を早期発見するための年1回の内視鏡検査を消化器内視鏡専門医以外で受けるほど愚かなことはない。

大腸内視鏡はさらに難しく、消化器内視鏡専門医でなけれ、手を出すこともできないであろう。消化器内視鏡専門医が1人いて、経験を積んだ看護師が数名いれば、内視鏡下の大腸ポリープ切除も十分行える。

以上が、消化器内科医を「かかりつけ医」としてお勧めする理由である。