食中毒の話ー消化器内科医が食中毒になってはシャレにならない

消化器内科の看板を背負っているので自分が食中毒になるわけにはいかない。

そのため、日頃から異常なほどに食中毒の危険を避けるようにしている。

生牡蠣は遠慮している。牡蠣は、多量の海水を体に吸い込み、濾過してプランクトンを食べている。だから、海水中に漂っているいろいろなものを体内に取り込んでいる。その中にはノロウイルスやA型肝炎ウイルスなども含まれている。人や動物の糞の分解物が多く漂っている海域の牡蠣ほど、その確率が高くなる。そのようなことを考慮して、産地によって生食用と加熱用に分けられているようだが、生食用であろうとそのようなウィルスを含む可能性がゼロではないので、私は十分に加熱した牡蠣だけを食べている。

魚、特に青魚の脂は健康に良いのでよく食べるし、刺身も食べる。

しかし、夏場、正確には海水温が高い時期には、刺身はなるべく食べない。海水の表面には、食中毒菌の腸炎ビブリオがいて、特に海水温が高い時に増加する。水は比熱が高いので温まりにくく冷えにくい。従って海水温は気温の上昇に遅れて上昇し、気温の下降に遅れて下降していく。そのため、いろいろな食中毒が多くなる梅雨から秋口までは信頼できるお店以外では刺身は食べないようにしている。

また、刺身は単品で買い、盛りあわせは買わないようにしている。盛りあわせで5種類のものが入っていれば、人の手が5倍ほど触れているのだから、それだけ感染のリスクが高くなる。さらに、複数のものが入っていれば鮮度に差がある可能性がある。

生魚には、アニサキスがついている可能性がある。いったん凍らせれば死滅するから、解凍した魚は大丈夫だ。しかし、素人が生の魚やイカをさばいて刺身で食べるのは危険だ。アニサキスは小さく、とぐろを巻いているので、それらのすべてを見逃さないのは、プロでも難しい。食べてしまうと、胃の粘膜に食い込んで激しい痛みを起こす。

富山名産のホタルイカは、一口サイズのイカなので、一時、その踊り食いが流行した。しかし、その内臓に旋尾線虫という小さな寄生虫がついていて、丸ごと生食すると、小腸粘膜に食い込んで腸閉塞の原因になることがわかり、踊り食いは見かけなくなった。

外食でのハンバーグや焼き鳥は信用できるお店で食べる。牛肉には大腸菌がついている可能性がある。肉の表面についているので、塊状の肉は、表面をある程度加熱すれば大丈夫だ。しかし、ひき肉や成形肉は、肉を細かく切って混ぜるため、表面についていた大腸菌が全体に広がっている可能性がある。もちろん、ハンバーグを中心部まで十分加熱すれば菌は死滅する。

鶏肉はカンピロバクターがついている可能性が高い食材の1つだ。自分で食べる時は十分加熱して食べる。豚は、E型肝炎に感染している可能性がある。また、輸入豚肉には有鉤囊虫という寄生虫がついている可能性があるので、やはり十分に加熱する。

害獣駆除からの流れで、鹿や猪の肉を用いたジビエ料理がブームだが、E型肝炎のリスクが高いので、しっかり加熱した肉でなければ食べない。

一般論になるが、自分や家族が食べるものを自分でつくらず、冷凍食品や外食チェーン店からコンビニ弁当に至るまで、誰が、いつ、どこで、つくったかわからないものを平気で食べる世の中にどんどんなってきている。

平成29年にある惣菜チェーン店の複数店で、ポテトサラダなどが原因と思われる病原大腸菌O157による食中毒が発生した。報道では、食品を扱う仕事としては信じられないことに、責任を持ってみずからサラダを野菜からつくるのではなく、ペーストにしたポテトをA社から仕入れ、刻み野菜をB社から仕入れるという業態で、O157の感染源となる食材がはっきりしないままに、結局、トングを悪者にする始末だ。

食の安全や健康を考えると、本当にこれでいいのかと思うのは私だけではないだろう。