痛みの伝え方ー痛みの客観化は難しい

痛みは主観的な感覚であり、それをうまく伝えるのは難しい。その伝え方のコツを順に説明する。

①痛みの部位 どこが痛いかによってどの臓器の痛みであるかわかることが多い。ただし、心筋梗塞の際に、放散痛として感じる歯の痛みや、虫垂炎が最初はみぞおちの痛みで始まることなどの例外的な症状もある。

②起こった時間 発症時間を、何時何分と記憶していれば急に始まった重い病気であることが多い。また、時間の経過によって痛みがどう変化したかも大切な情報だ。

③痛みの誘因 食事をすると痛いとか、お腹がすくと痛いとかであれば消化器系、ある姿勢で痛みが起きるなら整形領域、息を深く吸った時に痛ければ肺あるいは横隔膜近くの臓器、体に運動負荷をかけた時に起きれば臓器の虚血による痛みの可能性があるなどだ。階段を長くのぼるとかならず胸が痛くなる労作性狭心症や、一定の距離、例えば100m歩くと必ず足が痛くなる「間欠性跛行(はこう)」を呈する下肢の閉塞性動脈硬化症がその例だ。

④痛みの程度 これを表現するのが案外難しい。Numerical Rating Scaleといって最強の痛みを10として今の痛みを1とか8とかで、表現する方法や、Wong-Baker Face Scaleといって自分の感じている痛みが、0から5の顔の表情のどれにあたるかで、痛みのつらさの程度の表現に客観性を持たせようとする方法がある。これは癌性疼痛のペインコントロールの場などでよく使われる。このような方法以外に、生活への影響・支障の程度を説明するのも有効だ。「動いていると気にならないが静かにしていると痛みを感じる」「眠れないほど痛い」「冷や汗が出るほど痛い」「イライラしてじっとしていられないほど痛い」という具合だ。

⑤痛みの性質 これにはオノマトペ(擬態語)が有効だ。神経に関連した痛みは、「ビリピリ」「ビリビリ」「ジンジン」という表現が多くなる。消化管などが強く縮むときの痛みは時々波が押し寄せるように「ギューッ」と来る痛みだ。片頭痛の典型的な痛みは心臓の拍動に一致した「ズキンズキン」という痛みだ。

その他では、患者さんが自分でお腹などを押して、「押すとどうも痛い」といわれる場合は、案外たいしたことがないことが多い。自分で意識して触ったり押したりしているうちに痛みを強く感じてくる。逆に、医師が押したり叩いたりした時に患者さんが「痛っ」という場合には、だいたい治療を要する病気がある。