長期処方の損得ー主治医をかかりつけ医として期待するなら

高血圧や高脂血症の薬は、新薬でなければ最長3カ月分の処方をすることができる。長期処方を受ければ、通院する時間や診療費などを節約することができる。コストだけを考えれば長期処方がよいに決まっている。だが、総合的にはどうであろうか。

公的基幹病院では、外来患者をさばききれないこともあって、3ヵ月処方されている患者さんも多い。一方で、「病院の先生は電子カルテの画面だけをみていて私の方をみてくれない」というクレームをよく耳にする。

人間の記憶には限界がある。よほど気にとめて心配している患者さんのことは別として、私の場合、少なくとも2ヵ月以上の間隔があくと外来患者さんについての詳細はあまり記憶に残っていない。医師は電子カルテ上の情報を確認しないとその人を診察できないのだ 。前回に患者さんにした話はカルテをみないと思い出さないし、その人が痩せたか太ったかも体重の数字をみなければわからない。だから、長期処方を受けている患者さんは病院で医師になかなか自分の方をみて診察してもらえないことになる。これでは、通り一遍の診療はできても、「かかりつけ医」の機能は果たしてもらえない。

「今日はいつもより少し元気がないですね。寝不足ですか?」「少し痩せてきましたね。どうかしましたか?」「いつもの風邪よりひどそうですね。念のため、採血して白血球の数をみてみますか?」など、その患者さんの日頃のイメージが記憶に残っていればこそ、このような対応ができるのである。

このような長期処方のデメリットを納得したうえであれば、高血圧や高脂血症が薬でコントロールがつき、副作用なども起きずに同じ薬を継続している患者さんは、長期処方を選択してもよいだろう。

しかし、高齢の高血圧患者さんには、長期処方はお勧めしない。特に動脈硬化が進行している高齢者では、季節による血圧変動が大きくなる。血圧は気温に左右され、寒い冬に上がり、暑い夏には下がる。高齢の高血圧患者さんは、より適切な血圧管理をするために月に1度は受診して、今の血圧に対し薬が適切かどうか相談するのが賢明だ。

また 、ヘモグロビンA1cが7%を超えているような糖尿病患者さんにも、長期処方は勧めない。糖尿病は特に年末から春先までが悪化しやすい時期だ。その時期をまたいで長期処方を受けているようではよいコントロールは難しいだろう。