虫垂炎は難しいー特に若い男性は注意を

消化器内科で最も難しい病気は、虫垂炎であろう。早く正しく診断をつけないと薄い虫垂の壁が破れ穿孔し、腹膜炎になるからである。

虫垂炎は最初、上腹部の痛みで始まることが多い。それから、炎症が虫垂の壁の外側(臓側腹膜)まで及んでくると、痛みの部位が右下腹部にあると感じてくる。さらに炎症が進んで虫垂が穿孔するといろいろな症状が出てくる。

病院勤務の頃、ある週末に私が指導する医師が男子高校生を入院させた。月曜日に私がみた時点で重症の感染性腸炎として抗生物質の点滴が行われていた。確かに腹痛と下痢・高熟があり、私もそれを追認した。病歴を詳細に聞けば、下痢が腹痛より遅れてきたことを確認できたかもしれないが、それができなかった。熱が下がらず、数日後に腹部CTを撮って、虫垂炎の穿孔で膿瘍をつくり、限局性腹膜炎の状態になっていたことが判明した。入院当初から、腹膜刺激症状の1つとして下痢が起きていたわけである。

もう1例、開業してからのことだが、知人に「息子が腹痛・嘔吐で入院したが、熱も下がらないし、みてもらえませんか?」と相談された。

「食中毒であろうが、腸閉塞に近い状態になっている」との主治医の話を聞き、診察もさせてもらったが、もちろん、口出しはしにくい。数日後のCT検査で腫瘤があり、開腹手術になった。家族と共に手術結果を聞いたが、虫垂炎で穿孔して膿瘍をつくり、その膿瘍に押されて小腸が狭くなり、腸閉塞に近い状態になっていたとのことであった。

術後、本人にもう一度詳しく話を聞くと、「帰省する数日前に強い腹痛があったが、我慢しているうちに少しよくなった。帰省して友人と遊んでいたら、また痛みが出て、その後に吐き気も出てきた」とのことだった。最初の痛みの時に虫垂が穿孔し、2回目の痛みの時に膿瘍が悪化増大し、小腸が圧迫され狭窄症状をきたしたのだろうと思われた。

若い男性、特に体育会系の男子は我慢強い。普通の人では我慢できないような痛みでも「痛くないです」「大丈夫です」という言葉を使うようにも訓練されている。おそらく2例とも虫垂炎による虫垂の穿孔の後でようやく入院したのであろう。

医療従事者にも患者の家族にもいえることだが、若年層の人が急に腹部症状を訴えた場合は、虫垂炎の可能性を常に考えておかなければならない。