2007/06/23
開業医をしていて一番気が抜けないのは、終了時刻前の30分間、午後5時半からである。
夕方5時過ぎになると、それぞれの仕事を終えた患者さんが多く来院される。
しかし、問題は人数より病気の質。
症状が強ければ、多くの人は不安な夜を過ごした翌朝にすぐ受診する。
しかし、仕事を優先する人や我慢強い人は、無理をして一日仕事をしてから来院するため、
病気がその分進行している場合がある。
ある日の最後の患者さんは「数日前から風邪をひいていた」とやって来た。
のどが痛く、せきとたんが少しあり、胸の圧迫感があるとのこと。
聴診器を当てると片肺の呼吸音が弱く、金属音が混じる。
ご本人は案外ケロッとした表情なのだが、脈拍は一分間に90回とやや多く、
指に測定器を当てると血中酸素飽和度も少し下がっている。
いやな予感がしてエックス線写真を撮ると、片肺が完全につぶれていて典型的な気胸だ。
肺に穴が開き、そこから空気が漏れ出して肺がしぼんでしまう病気で、
やせ型の若い男性に多い。総合病院に電話を入れて、すぐに向かってもらった。
もしエックス線写真を撮らず、帰していたら―。
漏れ出した空気でさらにもう一方の肺も圧迫され、
夜中に息が苦しくなり、救急車を呼ぶことになっていたであろう。
冷や汗や安堵感が入り交じった複雑な思いで、患者さんを乗せた車を見送った。