2006/04/08
患者さんと病気以外のことで話の花が咲くこともある。
定期通院されているおじいさんは「物忘れがひどくて、ぼけてきたちゃ」
「孫も大学生になったし、もう、いつ死んでもいいがや」と毎回同じ話をして行かれる。
だが、ある日のこと…。
「もう米寿になられたんだから、お酒は少し控えたほうがいいですよ」とお話すると、
「今は昔ほど飲んどらん。若い時は戦争で中国へ行って、強い酒をたくさん飲んだもんや」と昔の話になった。
「陸軍、海軍、空軍とあったけど、いい男はみんな海軍に入ると決まっとったもんながや」
「ふうん、どうしてですか」と尋ねると、「海軍ちゃあ、船に乗って世界中の港へ行くわねぇ。
そんときに、背がすらっと高く男前で、強そうな兵隊さんやったら、
ほかの国は『日本ちゃ何ていい国や、日本と仲良うして戦争するがやめとこう』と思おうげ」と言う。
「なあるほど、海軍は日本のイメージ作りに大事やったがやね」
「そいがいちゃ。昔の偉い人ちゃあ、うまいこと考えとったもんや」。
おじいさんは実に楽しそうに話し込んでいかれた。
診察室から出て行くその後ろ姿が、その日は一瞬すっくと伸びて、制帽をかぶった男前の青年に見えた。