2010/12/29
「聴診記」の連載が始まってから、5年以上がたつ。
寄稿した中で反響を直接感じたのは、帯状疱疹について記した「腹痛の原因は?」だった。
帯状疱疹後の長引く痛みに有効な薬が新発売されたことについて、
複数の医療機関に問い合わせがあったそうだ。
「痛み」がいかに耐えがたくつらいものか、
また「新しい治療に関する情報」を読者の皆さんがいかに
渇望しているかをあらためて認識させられた。
「痛み」といっても実に多くの種類がある。
皮膚感覚の一つである痛み、腹痛に代表される胃腸や胆嚢、
子宮、尿管などが強く収縮する時の痛み、
インフルエンザなどの感染症で高熱と共に起きる全身の筋肉や関節の痛み、
骨や関節の老化と共に起きる変形性関節症の痛み、
さらには痛みを主な症状とする、いまだ原因もはっきりしない線維筋痛症などの難病もある。
中でも大変なのは、がんに関連する痛みである。
がんの痛みに対して最も効果のあるのは、麻薬系の鎮痛剤だ。
近年は、血中濃度が長時間一定に持続するように改良されたり、
吐き気で薬が飲めない患者さんのために貼り薬が作られたりと、
より効果的かつ安全に使用できるようになってきている。
日頃よく使われる痛み止めは、非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)と言われる消炎鎮痛剤だろう。
外来で患者さんとお話ししていると時々、痛み止めに関する誤解や誤用を見ることがある。
消炎鎮痛剤は解熱剤でもある。風邪のときに飲めば、熱が下がり、
咽頭痛や頭痛も軽くなるが、ウイルスや細菌に直接効くわけではない。
副作用に対する知識も必要である。
代表的な副作用として胃腸障害(胃炎、胃潰瘍など)が挙げられる。
人によっては胃薬との併用が必要だ。「胃潰瘍による胃の痛み」に
「頭痛薬としてもらった痛み止め」を飲んだりすると、火に油を注ぐことになるから要注意。
胃腸などの腹痛に対する痛み止めは「鎮痙剤」という全く別の系統の薬である。
腎不全の患者さんも消炎鎮痛剤が腎機能の急な悪化を引き起こすことがあり、腎臓の主治医と相談した方が良い。